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BOSAIみらいコラム | 2
火山災害

火山の噴火①|海底火山噴火とそのリスク

前野深さん
東京大学地震研究所 火山噴火予知研究センター 准教授 前野深さん

[学位]博士(理学) 東北大学理学部地球物質科学科卒 
[専門分野]火山地質学・火山岩石学
[研究テーマ]火山噴火に伴う地表現象のダイナミクスと噴火堆積物の形成過程に関する研究

火山の噴火|海底火山噴火とそのリスク

2021年8月には、海底火山 福徳岡ノ場の噴火により多量の軽石が噴出し、日本各地に漂着する被害がありました。

海底火山と富士山噴火の関係も危惧されるところですが、今回は、これまであまりクローズアップされることのなかった海底火山噴火とそのリスクについて、東京大学地震研究所・火山噴火予知研究センターで火山学を専門に研究されている前野深先生にお話をうかがいました。 

 

――一般的に海底火山についてはあまり周知されていませんが、陸上にある火山と海底火山は同じものと考えてよいのでしょうか。

前野先生(以下、前野):そうですね、噴火口が陸上にあるか海の中にあるかの違いであり、地下では同じようなことが起きています。福徳岡ノ場は海面上にはほとんど現れていませんが、実際にはかなり大きな山体です。伊豆小笠原から南方には海底火山島が点々と並んでいますが、どれも大きな火山であり、もしも陸上にあれば2000m ~3000m 級の山々が海のなかにあるということになります

――水深が深ければ深いほど水圧がかかり、噴火したときに放出するものも抑えられるのだと思いますが、福徳岡ノ場の噴火は、水深どの程度だったのでしょうか

前野 :福徳岡ノ場はさほど深いところではなく、水深100mもないところで起きた噴火でした。深くて70m、少し浅いところで50m。50m を浅いとみるか深いとみるかというと、それなりの深さではありますが、深海底で起きたものではなく、比較的浅いところでおきた噴火であると言えます。海面上に噴煙が突き抜け、広がっていく様子が衛星からもきれいに見えていましたが、そういうタイプの噴火が観測されたのは日本では珍しいことだと思います。もっと規模の小さい噴火は浅い海でそれなりに頻繁に起きていますが。 

――福徳岡ノ場は東京から約1300㎞離れていますが、首都圏に近い海底火山が大噴火を起こす可能性についてはいかがでしょうか。

前野 :首都圏に近い海域火山で代表的なものは伊豆大島ですが、1989年には伊豆半島東方沖で海底火山噴火がありました。水圧で抑えられたものの、一部海面上に水柱があがったのが確認されています。この東伊豆単成火山群や伊豆大島、三宅島、八丈島は、玄武岩と呼ばれる黒い岩質のマグマになっています。この種の火山は噴煙を高く上げることはあっても、カルデラを形成するような非常に爆発的な噴火を起こす可能性は低いと考えられています。しかし2030年おきに噴火をしており、全島避難しなければならないような災害を起こす可能性はあります。

一方で神津島や新島は岩石の組成が異なり、より爆発性の高い噴火を起こしやすい、白い流紋岩のマグマになっています。地図を見ていただければわかりますが、神津島や新島は、三宅島八丈島のラインから少し外れたところにあり、三宅島や八丈島とは地質構造が異なっているのです。神津島は9世紀頃、現在の首都圏にあたる地方に火山灰を降らせるほどの大きな噴火をしています。9世紀といえば非常に昔のようですが、火山の時間スケールで言うと、つい最近ということもできます。

――神津島には天上山という山がありますが、天上山はまだ噴火する可能性が残っているのでしょうか。

前野 :天上山の噴火が9世紀の大噴火ですが、神津島には天上山の他にも小さい火山が幾つもあり、過去数万年間に何度も噴火を繰り返し、今の島になっています。現在は休止期間ですが、天上山含め、噴火する可能性はあると思います。首都圏に近い海底火山では他に「大室ダシ」と呼ばれる、島にはなっていないものの非常に浅くなっていて、海底から熱水が出ている場所があります。伊豆大島の少し南に位置し、活火山には認定されていませんが、活火山に認定しようかという議論がなされています。そこはどちらかというと神津島や新島に近い白い流紋岩質の火山ですが、伊豆半島沖にはこのような火山も伏在しており、活動的な場所であるといえます。

――海底火山が噴火した場合、どのような被害をもたらす可能性があるのでしょうか。

前野 :水深の浅いところで海底火山が噴火すると、熱いマグマと水が接触し、一気に膨張して爆発する「マグマ水蒸気爆発」といわれる現象が起きるのですが、そうした爆発により、周辺を航行する船に被害を及ぼす可能性があります。また、火山は成長していくと、あるところで突然大規模に崩れる「山体崩壊」という現象を起こします。山体崩壊は海底火山に限らず陸上の火山でも起こることですが、その山体崩壊により海水が大きく動かされ、津波が発生する場合もあります。これらが陸上の火山噴火とは異なる、海域火山特有の災害といえるでしょう。

―伊豆沖の海底火山の活動が富士山の噴火に影響するのではないかという危惧もありますが。

前野 :たとえば神津島と三宅島のように近接している場合には、互いに相互作用を及ぼす場合もあり得るかもしれませんが、富士山と伊豆諸島の火山は距離も離れていますし、富士山の噴火が起きたから伊豆諸島の島が噴火するか、あるいは逆かということは、火山の研究者は慎重に考えますね。火山の根はそれぞれ独自に持っていて、よほど近くなければ互いに影響し合うことはあまりないと思います。また、地震と火山噴火も相互作用するかどうかは難しい問題だと僕は思います。

最近、日本国内では大きな噴火は起きておらず、平穏な時期と言えますが、それはたまたま各火山の静穏な時期が重なり合っているだけであり、火山はそれぞれ独立して活動をしています。ある火山は100年に一回、また別の火山は30年に一回といった具合に噴火を繰り返していて、その活動が重なる時期、重ならない時期があり、今は静穏ですが、噴火が頻繁に起きているように見える時期もくると思います。伊豆大島や、北海道の有珠山、三宅島に関しては今まで2030年おきに噴火していますので、時期がくれば噴火を起こす可能性があります。桜島は頻繁に小さい噴火をしていますが、大正噴火クラスの大規模な噴火が数百年おきに起きていますので、また大噴火が起きる可能性はあります。

――予知についてはいかがでしょうか。

前野 :噴火前には地殻変動で山が膨らみ始める、地震が多くなるなどの現象が捉えられることがあります。大きい噴火は被害が広域に及びますが、前兆も大きい場合が多いため、事前に噴火を予測できる可能性が高いと研究者は考えています。

一方で小さい噴火はシグナルが見えにくく、しかし頻度は高い。御嶽山の事例のようにマグマの出てこない水蒸気爆発でもあれだけの災害を起こしてしまいますし、規模は小さいけれど高頻度で起こるような噴火についてどう予測・ 対策をするのか。そこは課題であると考えています。現在日本には111の活火山があり、どこも噴火のリスクはあるといえますが、たとえば富士山であればこういう噴火をしやすい、伊豆大島であればこう、といった具合に、長い噴火の履歴を見てそれぞれの火山の特徴を知っておくのは非常に大事なことだと思います。

――本日はお忙しいなか、有難うございました。

 

聞き手:NPO法人日本防災環境 理事長 清水健男
取材:2021年12月13日
場所:東京大学地震研究所