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BOSAIみらいコラム | 1
感染症

新型コロナウイルス|過剰に恐れず、正しく恐れる

舘田一博さん
一般社団法人日本感染症学会 理事長 舘田一博さん

1960年(昭和35年)   神奈川県鎌倉市生まれ
1985年(昭和60年)   長崎大学医学部卒業
一般社団法人 日本感染症学会理事長
東邦大学医学部教授 (微生物・感染症学)
新型コロナウイルス感染症対策分科会委員

新型コロナウイルス|過剰に恐れず、正しく恐れる

新型コロナウィルス第三波が猛威をふるい、感染拡大に歯止めがかからず、重症者も連日最多を更新するなか、医療現場の逼迫が深刻化しています。

感染症も災害の一つととらえるNPO法人日本防災環境は、防災の視点から、新型コロナウィスル感染症について、一般社団法人 日本感染症学会 理事長 舘田一博先生にお話しをうかがいました。

 

――新型コロナウィルス終息の見通しが立たない状況が続いていますが、私たちはこのような感染症にどう備えたらよいのでしょうか。またなぜウィルスは繰り返し出現するのでしょうか。

舘田理事長(以下、舘田) :こうした感染症は、正しく恐れるということが大切です。パニックになり、恐怖を感じ、そこから差別や偏見が生まれ、分断、貧困という悪い連鎖が生まれていく。その悪い連鎖をどう断ち切って良い形にしていくのか。感染症に強い社会をどうやって作っていくのか。私たちはその方向性を目指さなければならないと考えています。

ワクチンや治療薬の開発が早く進めばよいのですが、第三波の先は見えないですし、第三波を乗り切ったとしても第四、第五波があるものです。これで終わらず、必ずまた次がくるわけです。しばらくはこのウィルスと付き合っていかなければならないわけですから、今の経験を次に繋げていくことが大事になるでしょう。

日本は2009年のパンデミックインフルエンザの時に近い経験をしているのですが、その反省が生かされていなかったといえます。

今回の新型コロナウィルスでも、アメリカや欧米諸国に比べると単位人口当たりの死亡者数は少ないものの、それでも3000人(2020年12月末時点)がもうすでに亡くなっているわけです。どうしたら亡くなる方を一人でも減らすことができたのかということを考えなければならないし、このままだと亡くなる方が、4000人、5000人と増えてもおかしくない危機的な状況にあります。これも災害であり、危機管理の視点で備えていかなければならないと考えています。

 

――欧米の感染者数の多さとアジアの感染者数の違いについてはどう思われますか。

舘田 :事実、ヨーロッパやアメリカに比べるとアジアの国々が単位人口当たりの死亡者数が少ないですし、その理由について確かなことはまだわかってはいませんが、マスクの導入が、日本も含めアジアで早かったことは要因として挙げられると思います。日本では、インフルエンザや花粉症のシーズンにマスクをするという習慣が育ちつつあったし、今ではもうマスクをしないで電車に乗っている人はまずいない、それくらい徹底されています。これが感染の広がりを抑えていることは間違いないといえます。

しかし唯一マスクをしないで過ごすシチュエーション、それが飲食です。特にお酒をのむ場ではマスクを外して大声で喋る、そこで感染が広がるわけです。ですから、感染が広がるそのリスクを減らしていかなければならないわけです。

また、若い人はアクティビティが高いし、感染しても重症化しないとわかっていて、今、やりたいこともある。ですからメッセージを出しても伝わらないのでしょうが、一概に若い人たちを責めることはできません。そういう人たちに対してどういうメッセージを伝えていくかということを僕たちは考えていかなければならないし、情報発信の仕方を工夫しながら対応していかなければならないのではと考えています。

 

――家庭内の感染についてはどのように対応すればよいのでしょうか。

舘田 :家庭内では僕もマスクはしていません。家庭に持ち込まれたら広がるのは仕方ない、そうでなければ家庭内が成り立たないですよね。ですからその前の段階で十分に注意し、家に持ち込まないようにすることが大切です。感染しないように外でマスクをし、帰宅後、手洗いをし、家に持ち込まないようにすること。よく言われるようにいつも会っている人たちとの生活であれば感染のリスクは限定されます。

色々な人が集まる場所、飲み会や居酒屋などで感染し、その人が家に帰って家族にうつすという、その流れを断たなければならないでしょう。もちろん家庭内にお年寄りがいるなら、お年寄りを守るために距離をできるだけ取ろうとか、お年寄りと話すときはマスクをしようとか、なるべく空気を入れ替えようとか、工夫をすることは必要です。

しかし、情報発信の仕方によっては家の中で何もできなくなり、それがパニックも繋がるので、「どうやったら乗り越えられるか」ということを考えるべきだと思います。それぞれの置かれた環境・場所によってどのようなリスクがあるのか、どうすればそのリスクを下げることができるのか、想像力をはたらかせて考えること。そして換気やマスク、手指消毒をし、距離を保ち、様々なことを組み合わせながら全体のリスクを下げていく、それが大事だと思います。

この感染症は通りすがりに感染するものではないし、マスクをし、話もしなければ、隣に座っていたからといって感染するものではない。濃厚接触というのは、マスクをしないで、一メートル以内の距離で15分以上話をすること。それが濃厚接触にあたるわけですが、今、知らない人とそんな距離感で話をすることなど、まずないですよね。そこを守っていれば感染しない。一方で、それをできない人が感染を広げている。感染の広がり方もある意味わかっているわけです。ですからそれをどう減らすかということになるのです。

 

――新型コロナウィルス変異株が国内で発見されている例もありますが、この先はどうなるのでしょうか。

舘田 :ウィルスが変化し、進化して広がりやすくなっていますが、広がりやすくなっても病原性が下がる、つまり、感染者は増えても重症例が少なくなってくれば、それは風邪のウィルスになってくるわけです。イギリスで起きている現象も病原性が弱くなっていく一つの例であれば良いのですが、それはまだデータがないのではっきりとしたことは言えません。

しかし、感染が広がりやすくなったら病原性は低くなってくると考えるのが普通です。これはウィルスとしての進化の方向性と言えます。ウィルスは人を殺すのが目的ではないのです。ウィルスにとって大事なのはその遺伝子をいかに保存して次に繋げていくか。そのためには、感染して静かに広がっていくほうが良いわけです。それが風邪です。この新型コロナも第五番目の風邪のウィルスとして定着していくのではないかというのが一つの予想です。

人間から見ると怖いものだから、病原性が強くなっていくのではないかと思いますが、ウィルスにとってその必要はない、人間と戦う必要はなく、人間に住みつけば良い、生きていたほうが良いのです。

 

――今回の新型コロナウィルスが収束してもまた新しいウィルスが現れるのでしょうか。なぜウィルスは繰り返し出現するのでしょうか。

舘田 :2002年にサーズ、2012年マーズ、2019年~2020年が新型コロナに見舞われたわけですが、サーズもマーズもコロナで風邪のウィルスですよね。コウモリから、ハクビシンやヒトコブラクダ、爬虫類などを介し、変異が起き、それがヒトに感染するようになってしまった。最初はコウモリでしたがヒトヒト感染が起きるように進化してしまったわけです。長い目で見れば今回の新型コロナも風邪のウィルスになっていくのでしょうが、今はまだ初めての経験、遭遇ということでこれだけ多くの感染症患者さん、死亡者が出ている状況だと言えます。

今のこのウィルスがさらに変異して新型になっていくというより、やはりまたコウモリ等から新しいウィルスが出てきてそれがヒトに適用するようになり、感染症を起こすようになる、それが新型の病原体の出現となるのでしょうが、それはわからないですよね。

 

――現代社会の仕組みがこうしたウィルスを生み出しているといえるのでしょうか。

舘田 :そのように言うこともできるかもしれません。森林が破壊され、人間が森の中に入りヒトと新しい病原体の接触する機会が増えたわけです。エボラ出血熱もそうですし、そうした接触の機会が様々な感染症の発生につながっていくといえます。

大事なのは、次にまた起きる感染症に備えていかなければならないということ。それが防災ですよね、そこにつながってくると思います。

 

――防災業者として、感染症にどう備えをし、どう啓発をしていくかということを検討しているのですが、今の段階ではわからないことも多く模索しているところです。

舘田 :地震や水害の場合は、一定期間、たとえば食料や水で乗り切ることができるかもしれませんが、感染症だと次にどんな病原体が出てくるのか、何をすれば良いのかわからない、予測できないということがあります。次の感染症は全く違う感染症で、肺炎ではなく、下痢を引き起こすコレラのようなものかもしれない、髄膜炎のような神経系の感染症になるものが出てくるかもしれない、それはわからないわけです。

大事なのはパニックにならないように、冷静に対応することだと思います。今回の新型コロナについてもテレビで毎日のように報じられ、煽られ、マスクが無くなったりトイレットペーパーが無くなったりしたわけです。それはパニックといえます。そうしたことが起きるのが人間ですが、それを我々の知恵でどう乗り越えていくのかを考えることが大事といえるでしょう。過剰に恐れないで正しく恐れるということをしていかないと苦しくなっていきます。

日本人は災害に苦しめられた歴史がありますが、それを乗り越えてきた歴史もあるわけです。他の国に比べると強い力になっているのではないかと思うし、強い力にしていかなければならないのですよね。日本はある意味、災害に強い国だとぼくは思うけれど、一方でそれが同調圧力になったり、自粛警察のようなものが出現したり、差別や偏見につながりやすい面もあるのかもしれない。だからそこは十分注意をしながら、模範となるような対策を確立していかなければならないと考えています。

そのためにも医学会、産業界、防災の方々と連携し、皆で協力しながら感染症に強い社会を作り上げるという目的に向かって活動をしていきたいと考えています。感染症学会としてもできるだけ協力をさせていただければと思いますので、何かあったら遠慮なくおっしゃってください。

 

――本日はお忙しいなか、有難うございました。

 

聞き手:NPO法人日本防災環境 理事長 清水健男
取材:2020年12月28日
場所: